タイの紙すき

中国で発明された紙すきは世界各地に広まったが、その古式の形態を残しているといわれるのが、タイやラオス、ネパール、ブータンなどのぎょう紙法(pouring method)である。抄紙法とは異なる技法でとても興味深かった。ぎょう紙法は、紙料を注ぐ又はすき舟からすくい上げそのまま簀(道具)ごと天日干しする。日本では、流し漉きで漉いた和紙は紙床台(しとだい)に移し、その都度重ねて最後に圧搾し、一枚一枚湿った和紙をはがして板に干す。ぎょう紙法の方が非効率的にように思えるが、タイ人の気質や風土にあったスタイルなのかもしれない。乾くときにできる独特の皺が紙に立体感を与える。一方和紙はじめ抄紙法の紙は、均質な紙に仕上がり機械で作ったものと違いがよくわからない。私の知る限り、90年代からタイのいかにもハンドメイドな感じの紙を雑貨屋さんでよく見かけた。手作りの風合いも良く、価格的にも使いやすい紙なのだろう。居酒屋の看板メニューや日本蕎麦屋のメニュー表にも使われていて驚いたことを記憶している。

 

写真当時の調査は2008年タイ北部チェンライである。青い網を木枠で固定している紙すき道具で写真から推計して84枚。ビーターでほぐした紙料を水槽にすき枠ごと入れて紙をすく。そして、そのまま太陽に向けて自然乾燥。

メコン川沿いをサイクリング中にタイ楮を発見した。ざらっとした葉、切れ込みの浅い様子から梶の木か梶の木に近い楮と思われる。推計3m以上に成長、電線をゆうに追い越している。日差しが強く暑かったことを思い出す…。聞いたところによるとこの長さで1年に2回取れるから、日本の楮が約2mとして年1度の収穫量と比較すると3倍量が見込めるのではないだろうか。油分があり、ソーダ灰で煮ると2ミリくらいの丸い透明のシミが残るので、日本では用途により使い分けているらしい。ちなみに東京手すき和紙工房では使用していない。